サービス・クオリティにナラティヴ・アプローチの考え方を取り入れることで、組織の心理的安全性が生まれる可能性についてホテル勤務時代の例で考えてみました

【サービス・クオリティ X ナラティヴ・アプローチ = 心理的安全性】

 

 

私は以前外資系ホテルで、サービス・クオリティ・マネジメント(管理・向上・創造)の担当部門で仕事を11年間していました。サービス・クオリティを管理するプロセスは、ホテル内で発生している問題を把握することから始まります。そのソースは、顧客への事後調査、顧客から寄せられるコメント、滞在中の顧客からの不満足の声、そして、従業員自ら申告するスタンダードに満たないことなどがあります。それらが私がいた担当部門に報告されるプロセスがあり、報告された問題を分類し、担当部署と原因や解決方法を検討し、実行します。

 

 

ホテル内で発生している問題の状況を、できるだけ正確に把握するためには、従業員が自分で対応した顧客から告げられた問題や、顧客に告げられなかったとしても自分で発見した問題を全て報告することが必要となります。しかしながら、自部署の、特に自分のミスで発生した問題を報告するということは、必ずしも簡単なわけではありません。多くの企業や組織が、ここに様々な困難さを感じていることと推察します。

 

 

私が勤務していたホテルでは、その困難さを乗り越える多数の取り組みを行っていました。その一つが、ナラティヴ・アプローチの主たる考えである「問題の外在化(擬人化)」です。私が勤務していたホテルでは、問題がどのような形で現れるかを5つのタイプで分けていました。それらは、1.Mistake(間違い) 2.Rework(やり直し)3.Breakdown(故障)4.Inefficiency(非効率)5.Variation(ばらつき)です。そしてこれらの頭文字をとって、Mr. BIV(ミスター・ビヴ)と名前をつけていました。実際には、Mr.BIVの絵や人形もありました。Mr. BIVはシルクハットをかぶり、タキシードを着た悪魔っぽいキャラクターです。(このあたりは、ラグジュアリーホテルらしさが滲んでいます。)新入社員には、「Mr.BIVはホテル中にいるので、どこにいるか気をつけて、発見したらすぐに報告しましょう」と教育します。同時にそれが維持されるための他の取り組みも行っていきます。

 

 

こういった一連の、問題を発見し報告するプロセスを活性化することは、組織の心理的安全性を高めることに貢献すると考えます。自分のミスで発生した問題を報告するのは誰しも心が痛みますが、報告する目的や意味を理解し、日常的に上司を含めた全ての従業員が報告する行動をとることで、その痛みを乗り越えることができる環境をつくります。

 

 

このMr.BIVという問題を擬人化することを、私は当時そのホテルのやり方として受け止めていました。ですが5年ほど前にナラティヴ・アプローチと出会い、問題の外在化(擬人化)という手法を知りました。ナラティヴ・アプローチでは、人から問題を切り離し、クライアントとカウンセラーが共に問題について描写することを通じ、「問題が問題であり、人が問題ではない」というナラティヴ・アプローチの考えを体現します。私が勤務していたホテルにおける問題に対する考え方、担当していたサービス・クオリティ・マネジメント、そしてナラティヴ・アプローチがつながり、何か納得感や嬉しさのようなものを感じました。

 

 

 

問題を人から離すことで、報告しやすくする。それによって問題を把握し、効果的・効率的に対応する機会をつくる。結果としてそれは問題そのものを削減することにつながる。また、人は問題を報告することでサービス・クオリティの向上に貢献しているという感覚を持ち、それは組織の心理的安全を生み出す可能性を助けるのではないかと考えます。